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日本語教育FD講演会「日本語教育の参照枠と評価」(講師:島田めぐみ氏)を開催しました

2026年3月4日、講師に島田めぐみ先生(日本大学)をお迎えし、「日本語教育の参照枠と評価」というテーマで言語教育研究センター主催のFD講演会を開催しました。学習者に対する評価法を専門とする島田先生の視点から、2021年に誕生した「日本語教育の参照枠」の重要性と理念が解説され、その理念を体現する評価法の事例紹介、そして今後の課題へと話題が展開しました。
講演冒頭ではまず、日本語能力試験(JLPT)と英検の各レベルの対応関係を示す新聞記事が紹介され、近年、欧州言語共通参照枠(CEFR)を媒介に、外国語学習者のレベルを共通尺度(=参照枠)で捉える方向に舵が切られている現状が示されました。日本語を学ぶ学習者の増加、目的の多様化を背景に、参照枠の重要性は増しており、たとえば、異なるテストや異なる学習機関を結ぶ共通尺度があれば、学習者が国や教育機関を移動しても、継続して学びを支えることができます。
島田先生によると、共通参照枠による評価には、1.生涯にわたる自律的な学習の促進、2.学習の目的に応じた多様な評価手法の提示と活用促進、3.評価基準と手法の透明性の確保という、大きく3つの理念があります。基礎から熟達レベルにいたる指標の存在は、到達点をわかりやすく示し、生涯にわたる自律的な学びを支えます。また、教師による試験のほか、自己評価や相互評価、ポートフォリオの活用など多様な評価方法が、様々な目的の学びを後押しします。そして、Can-do(できること)に注目した評価基準を、学習者と教師間、あるいは第三者も含めて共有することで、評価の透明性を高め、学習者の目標を明確化することができます。

こうした共通参照枠の理念を体現する評価法の事例として、島田先生のグループが開発した、「日本語聴解認知診断オンラインテスト(CD-JAT)」が紹介されました。このテストは、学習者の到達点を即時に判定し、結果をレーダーチャートで示すもので(図参照)、従来型のテストより、学習者の聴解力の強みや弱みをより細やかに判定し、改善点をフィードバックします。
開発の出発点となっているのは、聴解テストの合計得点が同じでも、音声的特徴の認知能力、主旨理解能力、推測能力といった、「アトリビュート(=教科の学習内容を理解するために必要な潜在的認知的技能・知識)」ごとに、得意・不得意があるという考え方です。このテストでは、それぞれの受験者について、各アトリビュートが習得されている確率を算出します。
テストの開発は苦労の連続で、試行錯誤と膨大な時間を要しました。アトリビュートの設定→聴解の素材選び→正答に必要な要素の特定→学習者の解答データとつきあわせて確率モデルにより計算、というプロセスを行きつ戻りつ、信頼のおけるテストシステムにたどり着いたとのことです。オンライン方式のテストなので、自分のペースで音声の進行をコントロールできる点が、従来の一斉方式のテストと異なっており、「多様な評価法の提示」という参照枠の理念にも合致する長所の一つです。
講演の結びには、「日本語教育の参照枠」をめぐる今後の課題が示されました。第一に、現行の大規模日本語試験には、口頭コミュニケーション能力の測定を行うものがほとんどなく、学習者の動機づけや教育機関のカリキュラム設計にネガティブな影響を与えていること、第二に、大規模試験と参照枠の対応付けは高度な専門知識が必要であるためあまり進んでいないこと、また、大規模日本語試験には、「話す」「書く」技能を測る項目がないため、参照枠に十分に対応していないこと、第三に、語彙・文法・文字の観点では、参照枠のレベルとの対応付けがなされていないこと、特に日本語は漢字をもつことから、ヨーロッパ発祥の参照枠とは別の議論が必要であることがあげられました。

質疑応答では、参加者から「日本語聴解認知診断オンラインテスト(CD-JAT)」のフィードバックを学習者が適切に理解するためには、アトリビュートについてのメタ認知的な力の養成も必要ではないか」との質問が寄せられ、「その通りであり、そういった能力の養成も含めて、このテストをどのように活用していくかを、今後、現場の先生と密にコミュニケーションをとりながら探究していきたい」との回答がなされました。また、「評価基準を共有すると、学習者がそこに偏って不自然な勉強をするのではないか、点数を取るためのパフォーマンスになるのではないかとの懸念があるが、評価基準の透明性はどこまで高めていくべきか」との質問に対しては、「透明性はどこまでも高めてよいものだと思う。基準を念頭に勉強し、目標が達成できるのであれば願ってもないこと。テストは、授業の目的に対応して行うものなので、この授業=テストで何ができてほしいかを共有するのは自然なことであり、事前にテストの内容を教えてもよいという考え方もある」との回答でした。
講演会には60名ほどの参加者の方々がご参加くださり、盛況のうちに終了しました。優れた評価は学びと一体のもので、その中心には学習者がいて、学びを支え後押しするための重要な過程であることを再認識いたしました。上智大学の日本語教育に対しても多くの示唆を頂きました。

